2008年12月27日(土)
【番外編】記憶喪失の少年
King Says XXX掲載作品を展示します。
この作品では寿々さんのところの求君をお借りしました。
「…あれは??」
妹がいつもの道の異変に気付き姉に尋ねた。
姉妹が近づいてよく見てみると、そこには蜂蜜色の癖っ毛を持った1人の少年が傷だらけで横たわっていた。
「おーい、元気ですかー?」
妹が少年を指で突こうとすると、すかさず舞は制止した。
「待て、私が確認する。」
舞は、妹に関しては過剰に過保護であり妹に不振なこの人間に触れさせてはいけないと思い、自らこの少年の様子を調べた。
頬を叩いても声をかけても応答がない。胸にそっと耳を当てると、かすかに心臓の拍動が感じられ呼吸もわずかにしていた。
「…とりあえず生きてはいるみたいだな…」
行き倒れる人間を舞は何度も戦場で見てきた。命乞いをするもの、どうせここで散る命ならと自分の貞操を乱そうとするもの、全て彼女は排除してきた。ただこの少年は、どこか初めて出会った時の妹に似ていた。
とりあえず生かされている
双子と言われていたが、自分とはまるで違い、痩せこけて透き通るような肌の色をした身体。髪の毛も色素が落ちて薄い緑色をしている、そして何かに怯えるようにその身体を震わせていたあの妹に…
そんな目で彼を見てしまった舞には彼をそのまま放っておくことはできなかった。
「喫茶に連れて帰る。少し手伝ってくれ。」
舞は妹にそう促してこの少年を連れて帰ろうとした所その少年は突然目を覚ました
「あ……うぅ…の…。」
少年は起き上がり、自分の傍にいる二人の少女の顔を覗き込むと急に震え怯えだした。
「こ、こわ……い…ひと???。」
不意に初めて妹と会った時の記憶が蘇る。
「わたしの…おねえさん?…おねえさんこわい???」
その時に取った自分の行動は、舞自身も意外な行動だった。
「大丈夫。怖くない。」
怯える妹を優しく愛おしく抱きしめそっと頭をなでた時と同じように少年をぎゅっと抱きしめ
「大丈夫。怖くない。」
と、そっと頭をなでた。物心ついた時から戦場にかりだされ、人を愛し慈しむ心など微塵も持ち合わせていなかった舞がはじめて見せた妹への愛情をその少年にも同じように注いでいた。
それをずっと見ていた妹はクスクスと笑いながら、
「ちょっと妬けちゃいますね」
と言った。
「べ、別に『自分は敵じゃない』と相手にわからせようとしただけだっ!!」
と舞は真っ赤になって照れた。
少年を無事自分達の住処に連れてきた姉妹が最初に向かったのは、同居している女医さんだった。少年はたまたま往診から帰ってきた白衣姿の女医の姿を見ると突然わめきだし、泣き始めてしまった。
「あらあら~お医者さんに何か嫌な思い出でもあるのかしら~?じゃ、翔ちゃんこの指示書通りにこの子のこと調べちゃってね~そうするとだいたい症状はわかるはずよ~」
と、翔に指示書を出すと鼻歌を歌いながら奥の実験室と書かれた怪しげな部屋に入って行った。
翔と女医が指示の確認をしている間。なぜかこの少年は舞になついてきた
「ねーたん。まいねーたん。」
「うーん、こいつは、随分舌ったらずに喋るなぁ~」
とりあえず頭をなでていると、ご機嫌になるのでひたすら頭をわしゃわしゃと撫でていた。
部屋に戻ると翔は姉に疑問をなげかけた。
「そーだっ!!この子の名前がわかりません。どーしましょ?」
あっ、『そういえばそうだな』と舞もぽんと手を叩いたが、すぐに顔をしかめた。
「でも、この調子だとちゃんと自分の名前も言えるかどうかわからんぞ…そうだな、呼びやすいあだ名をつけてやろう。」
二人でしばらくこの少年の名前を考え始めた。最初に提案したのが意外にも姉の舞だった
「そうだ『新しい名前』と書いて『ニーナ』って読むのはどうだろう?」
「わぁ…流石姉さん!!素敵な名前ですね!!良かったね~ニーナ君」
妹もそっとニーナの頭を撫でてみたが、なんとなく姉に撫でてもらっているときの方が気持ち良さそうに見えた。
「あっ、そうそう。私これから下に行ってあったかい料理作ってくるから、姉さんはニーナ君をお風呂に連れてってあげてください。ついでに先生が言ってたヒアリングもお願いしますね。」
というと妹は姉に指示書を渡し、部屋を後にした。
料理の腕は妹の方が上なので、舞は当然のことのように引き受けた。
「いくらなんでも風呂の入り方ぐらいはわかるだろう?」そう思った舞が浅はかだった。
「わーいわーい。ぶぅーんぶぅーん」
何かはしゃぎ声が聞こえるので、まさかと思って浴室を開けてみると、泡だらけになったニーナが泡で遊んでいた。
「……ふぅ。しょうがない奴だな…」
舞は、いくらなんでも年頃の男の人とお風呂に入るのはいかがなものかと思っていたが、このままでは風呂場が泡だらけになってしまっても困るので、覚悟を決めて傍にあった女性用のバスローブを着て風呂場に乗り込んだ。
その後は泡を綺麗に流しながらニーナの様子もみつつ頭や身体を洗ったりした。彼の身体をよく見ると最近ついた傷ではないもっと昔についた傷も見受けられた。その姿はますます自分の妹と初めて会った時の姿と重なった。あれは、初めて一緒に風呂に入った日のことだった。
「翔…お前その傷は…」
「……回復能力の力が出るまで私『失敗作』扱いだったから……電気流されたりとか変な注射打たれて腫れがひかなかったりとか…そんな生活が嫌で自分で自分を傷つけたりとかしたらこんなに……」
妹は悲しそうに笑った。舞はその時の笑顔が妙に忘れられなかった。
「お前も色々あったんだろうな……」
「うにゃ~?」
こうなったらとことこんこいつに付き合おう。
そう決意した舞には今までのためらいはなかった。そこにあったのは1人の美しい姉の姿であった
「ほらっ、余所見しない!!こっち向く!!」
お風呂を出た後も髪の毛を乾かしたり、タオルで拭いたり、それはもう弟の面倒を見る姉かやんちゃな息子をたしなめる母親のようだった。

ニーナの頭をマッサージしながら拭いている途中で、ウトウトと居眠りを始めたニーナを必死に、
「こらっ!!まだ寝るな!!」
と叱りながらなんとか部屋まで連れていった。ベッドにニーナを寝かせた。ふと彼の顔を覗き込むととても幸せそうな顔をしていた。
「むにゅむにゅ~。」
そんな幸せそうな顔を見つめていると、舞も世話疲れか、一緒にスヤスヤと無防備に寝息を立てて眠ってしまった。
「あらあら、ご飯がせっかくできたのに二人ともおねむさんですか?」
暖かいスープが出来たので呼びに来た妹は幸せそうな顔をして眠る二人をくすくすと笑いながら見つめていた。
少年は、暫く彼女達と生活を共にしていたが、ある日突然二人の目の前から消えてしまった。きっと彼は本来いるべき場所に帰ったのだろう。そう二人は納得し、また今まで通り仲睦まじく暮らしていった。
この作品では寿々さんのところの求君をお借りしました。
【More・・・】
いつものように舞と双子の妹の翔は、買出しの帰り道を歩いていた。今日は少し北風が強く肌寒い。姉の舞は妹の体調を気遣いながら寄り添うように家路につくところだった。「…あれは??」
妹がいつもの道の異変に気付き姉に尋ねた。
姉妹が近づいてよく見てみると、そこには蜂蜜色の癖っ毛を持った1人の少年が傷だらけで横たわっていた。
「おーい、元気ですかー?」
妹が少年を指で突こうとすると、すかさず舞は制止した。
「待て、私が確認する。」
舞は、妹に関しては過剰に過保護であり妹に不振なこの人間に触れさせてはいけないと思い、自らこの少年の様子を調べた。
頬を叩いても声をかけても応答がない。胸にそっと耳を当てると、かすかに心臓の拍動が感じられ呼吸もわずかにしていた。
「…とりあえず生きてはいるみたいだな…」
行き倒れる人間を舞は何度も戦場で見てきた。命乞いをするもの、どうせここで散る命ならと自分の貞操を乱そうとするもの、全て彼女は排除してきた。ただこの少年は、どこか初めて出会った時の妹に似ていた。
とりあえず生かされている
双子と言われていたが、自分とはまるで違い、痩せこけて透き通るような肌の色をした身体。髪の毛も色素が落ちて薄い緑色をしている、そして何かに怯えるようにその身体を震わせていたあの妹に…
そんな目で彼を見てしまった舞には彼をそのまま放っておくことはできなかった。
「喫茶に連れて帰る。少し手伝ってくれ。」
舞は妹にそう促してこの少年を連れて帰ろうとした所その少年は突然目を覚ました
「あ……うぅ…の…。」
少年は起き上がり、自分の傍にいる二人の少女の顔を覗き込むと急に震え怯えだした。
「こ、こわ……い…ひと???。」
不意に初めて妹と会った時の記憶が蘇る。
「わたしの…おねえさん?…おねえさんこわい???」
その時に取った自分の行動は、舞自身も意外な行動だった。
「大丈夫。怖くない。」
怯える妹を優しく愛おしく抱きしめそっと頭をなでた時と同じように少年をぎゅっと抱きしめ
「大丈夫。怖くない。」
と、そっと頭をなでた。物心ついた時から戦場にかりだされ、人を愛し慈しむ心など微塵も持ち合わせていなかった舞がはじめて見せた妹への愛情をその少年にも同じように注いでいた。
それをずっと見ていた妹はクスクスと笑いながら、
「ちょっと妬けちゃいますね」
と言った。
「べ、別に『自分は敵じゃない』と相手にわからせようとしただけだっ!!」
と舞は真っ赤になって照れた。
少年を無事自分達の住処に連れてきた姉妹が最初に向かったのは、同居している女医さんだった。少年はたまたま往診から帰ってきた白衣姿の女医の姿を見ると突然わめきだし、泣き始めてしまった。
「あらあら~お医者さんに何か嫌な思い出でもあるのかしら~?じゃ、翔ちゃんこの指示書通りにこの子のこと調べちゃってね~そうするとだいたい症状はわかるはずよ~」
と、翔に指示書を出すと鼻歌を歌いながら奥の実験室と書かれた怪しげな部屋に入って行った。
翔と女医が指示の確認をしている間。なぜかこの少年は舞になついてきた
「ねーたん。まいねーたん。」
「うーん、こいつは、随分舌ったらずに喋るなぁ~」
とりあえず頭をなでていると、ご機嫌になるのでひたすら頭をわしゃわしゃと撫でていた。
部屋に戻ると翔は姉に疑問をなげかけた。
「そーだっ!!この子の名前がわかりません。どーしましょ?」
あっ、『そういえばそうだな』と舞もぽんと手を叩いたが、すぐに顔をしかめた。
「でも、この調子だとちゃんと自分の名前も言えるかどうかわからんぞ…そうだな、呼びやすいあだ名をつけてやろう。」
二人でしばらくこの少年の名前を考え始めた。最初に提案したのが意外にも姉の舞だった
「そうだ『新しい名前』と書いて『ニーナ』って読むのはどうだろう?」
「わぁ…流石姉さん!!素敵な名前ですね!!良かったね~ニーナ君」
妹もそっとニーナの頭を撫でてみたが、なんとなく姉に撫でてもらっているときの方が気持ち良さそうに見えた。
「あっ、そうそう。私これから下に行ってあったかい料理作ってくるから、姉さんはニーナ君をお風呂に連れてってあげてください。ついでに先生が言ってたヒアリングもお願いしますね。」
というと妹は姉に指示書を渡し、部屋を後にした。
料理の腕は妹の方が上なので、舞は当然のことのように引き受けた。
「いくらなんでも風呂の入り方ぐらいはわかるだろう?」そう思った舞が浅はかだった。
「わーいわーい。ぶぅーんぶぅーん」
何かはしゃぎ声が聞こえるので、まさかと思って浴室を開けてみると、泡だらけになったニーナが泡で遊んでいた。
「……ふぅ。しょうがない奴だな…」
舞は、いくらなんでも年頃の男の人とお風呂に入るのはいかがなものかと思っていたが、このままでは風呂場が泡だらけになってしまっても困るので、覚悟を決めて傍にあった女性用のバスローブを着て風呂場に乗り込んだ。
その後は泡を綺麗に流しながらニーナの様子もみつつ頭や身体を洗ったりした。彼の身体をよく見ると最近ついた傷ではないもっと昔についた傷も見受けられた。その姿はますます自分の妹と初めて会った時の姿と重なった。あれは、初めて一緒に風呂に入った日のことだった。
「翔…お前その傷は…」
「……回復能力の力が出るまで私『失敗作』扱いだったから……電気流されたりとか変な注射打たれて腫れがひかなかったりとか…そんな生活が嫌で自分で自分を傷つけたりとかしたらこんなに……」
妹は悲しそうに笑った。舞はその時の笑顔が妙に忘れられなかった。
「お前も色々あったんだろうな……」
「うにゃ~?」
こうなったらとことこんこいつに付き合おう。
そう決意した舞には今までのためらいはなかった。そこにあったのは1人の美しい姉の姿であった
「ほらっ、余所見しない!!こっち向く!!」
お風呂を出た後も髪の毛を乾かしたり、タオルで拭いたり、それはもう弟の面倒を見る姉かやんちゃな息子をたしなめる母親のようだった。

ニーナの頭をマッサージしながら拭いている途中で、ウトウトと居眠りを始めたニーナを必死に、
「こらっ!!まだ寝るな!!」
と叱りながらなんとか部屋まで連れていった。ベッドにニーナを寝かせた。ふと彼の顔を覗き込むととても幸せそうな顔をしていた。
「むにゅむにゅ~。」
そんな幸せそうな顔を見つめていると、舞も世話疲れか、一緒にスヤスヤと無防備に寝息を立てて眠ってしまった。
「あらあら、ご飯がせっかくできたのに二人ともおねむさんですか?」
暖かいスープが出来たので呼びに来た妹は幸せそうな顔をして眠る二人をくすくすと笑いながら見つめていた。
少年は、暫く彼女達と生活を共にしていたが、ある日突然二人の目の前から消えてしまった。きっと彼は本来いるべき場所に帰ったのだろう。そう二人は納得し、また今まで通り仲睦まじく暮らしていった。
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